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紫陽花って馬鹿なのかな。

紫陽花って馬鹿なのかな。
なんの脈絡もなく、彼女はそういった。
「随分とまた、酷いこと言うね」
苦笑してそういえば、だって、と彼女は頬を膨らませる。
桜だって、間違えて秋に咲くことがあるんだよ。
雨なんて全然降らないのに、なんで紫陽花はちゃんとこの時期に咲くんだろう、と。
昔は夏も二十五度を過ぎれば暑かったと、少し上の世代の人達は口を揃えて言う。
嘘だと思うけれど、ほんの二十年前に書かれた小説にそんな記述を見つけて天を仰いだ。
今じゃ、二十五度なんて、「涼しい」に入ってしまうくらいだ。
夏の気温が、余裕で四十度近くになったころから、空梅雨と不安定な大気が六月の空模様を彩るようになった、らしい。
紫陽花には、雨。そしてカタツムリ。
そんな情景なんて、久しく見たことがない。
伝説じゃないかなって思ってる。
だから彼女は言うのだ。
雨も降らないようになったのに、こんな真夏の気温の中でも変わらず狂ったように咲く紫陽花は、馬鹿なんじゃないか、と。
晴れた日に映える、綺麗な萼(がく)にあんまりな言いぐさである。
「一途なんじゃないの?」
紫陽花がどうしてこの時期に咲くのか、どんな条件で色づくのかは、わからない。
でも、そうだったらいいな、なんて思って口に出せば、ばかばかしいとでもいうように、花だよ?そんなわけないでしょうと吐き出した。
「知らないの、紫陽花の花言葉?」
「知ってる、移り気でしょ。萼の色が土壌で変わるから」
「それもあるんだけどね」
僕は、自分の背よりも高く伸びきった紫陽花に手を伸ばす。
白い萼(がく)が青い空を飾っていて。
「辛抱強い愛情」
雨の中、耐え忍んで咲くその姿につけられた、花言葉。
そんなものなくたって、花は綺麗に咲くものだけれど、その姿に意味を持たせたがる人の性(さが)もわからなくはない。
彼女は唇をひん曲げて、ばかばかしいと、先を行く。
君が好きだから結婚してほしい。
彼女の反応は、僕の一世一代の告白を切って捨てたときと全く同じで、数年前を懐かしむように、仰いだ太陽に目を細めた。
あれ以来僕たちは、友達とも知人とも恋人ともいえない、微妙な間柄が続いている。
 

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