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可哀想に。呪われているね。その魔女は、僕の頭を優しく撫でてそう言った。

可哀想に。呪われているね。
僕が魔法使いになることを諦めるほんの少し前、偉大にして尊大なその魔女は、僕の頭を優しく撫でてそう言った。
愛も度を越せば呪いになる。君が縛られているのは、言の葉だね。
可哀想に、と彼女は静かに、厳かに、繰り返す。
ああ…。
優しい、碧色の瞳が悲しみに暮れていて、僕はたまらず泣きたくなった。
「そんなことは、ないですよ」
かすれる声で柔らかく否定して、僕は彼女のしわくちゃな手を握った。
そんなこと、ありませんよ。
彼女は、年齢よりもほんの少しだけしわの少ないその顔を、ゆがませることもなく、決して言及するわけではなく、静かに語りだした。
君は実力がないわけじゃないのにね。むしろ、誰よりも努力しているというのに。
それを鼻で笑われたんだね。
だから君はいつだって、自分に自信が持てないでいる。
可哀想にね。
お前はダメだって、お前なんかって何度も何度も言われたんだろうね。
言われて、言われすぎて、言葉に縛られてしまったんだね。
可哀想に。
彼女は僕の頭を、優しく撫でるのだ。
否定されてきたから、どんなに肯定してもらっても、どんなに褒めてもらっても、素直に受け止めきれないんだよね。
もっと頑張らなくちゃって思うんだよね。
しわしわに節くれだった指が、僕の髪をすいていて。
ああ。
ダメだ。
お願いです。
もう何も言わないで。
でも、それでも彼女は言の葉を止めてはくれない。
「君は勘もいい。人を良く見てる。才能、あるよ」
鼻の奥がつんと痛い。頬に熱いものが伝った。
「ありがとうございます。でも、もう決めてしまいましたから」
お前は魔法使いなんて、そんな大層なものにはなれないよ。
言の葉に、手も足も、心も、絡めとられてしまった僕には、きっと、もう。
「僕は、魔法使いを支える一流の薬剤師になります」
ああ。最後の願いが、零れ落ちる。
体から、ほどけて消えてしまう。
彼女は、少女のように瞼を震わせて、目を伏せた。
もったいない、と。
君には才能がある、と。
どうか自信を持ってほしい、と。
そういって言ってもらえただけで、なんだかとっても幸せだったから。
いつだって試験はボロボロで、失敗してはいけないと思えば思うほど、いつもと同じようにはできなくて。
もしも、失敗してしまえば、自分の努力が無駄なものだと、ほら見ろと嗤われてしまうから、怖くて怖くて仕方なくて。そうして力めば力むほど、僕は失敗を重ねる。
それでもそんな自分を認めてくれた人がいただけで、本当に、幸せだったから。
「だから、もう、」
いいんです。
ああ。
僕はちゃんと、笑えていただろうか。
薬剤師になると告げれば、お前にはそれがちょうどいい。魔法使いだなんて大それたこと、お前がなるだなんてどうかしてると両親は満面の笑みでそう言ってくれた。
ねえ、偉大で尊大で大好きな魔女さん。
どうか、悲しまないで。
僕はあなたのようにはなれなかったけれど。
でも、それでも。
僕は別に、不幸なわけではないんだよ。

サムネイル 写真素材 足成 様 http://www.ashinari.com/

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