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またあいつが私の下に帰ってくる。

2014-01-05

 

「やっぱりお前といる時が一番、気が休まる」
そんな言葉を吐きながら、またあいつが私の下に帰ってくる。

昔馴染みの話だから、どうか、さらりと聞き流して欲しい。
その男は、添え木がないと自重を支えられない類の人間だった。
男女関係で言えばいわゆる、女が絶えないタイプの男。
顔が良いわけでも、特別性格が良いわけでも、財を成しているわけでもない。
それでも、彼は、恋人が途切れない。
常に誰かがそばにいて、常に誰かに愛を囁いている。
そういう、「誰か無しでは生きていけない」男なのだ。
手口は簡単。
狙いを定めた女性に対し、ひたすら細やかに努める。ほんの些細な変化も見逃さず、相手の話には口を閉じ、真摯に聞く体勢を取る。
かといって他の女性に対し、冷たいのかと言われればそれは異なり、他の女性に対しても、気配りを欠かさない。
例外である私を除いては。
普段は物事に関心を示さない彼が、粘り強く、相手のことに執着し、かの女性が彼の罠にはまるまで、辛抱強く待ち続けるのだ。
そうして、女はいつだって、彼に言う。
「恋人になって欲しい」と。
しかし、幸か不幸か、彼の、女性に対する関心はそこで終わってしまう。
釣った魚にエサはやらない。
彼の、女性に対する熱意も執着も以前ほどではなくなり、それに気付いてしまった女性側から、いつだって別れを告げられるのだ。
「思っていたのと、違う」と。
ああ、詐欺に近いだろう。
詐欺紛いのことをやってのける人間なのだ、その男は。
『気に入った女性を支える自分』と言う価値が欲しいだけなのだから。
そうして、添え木を失った彼は、私の下に帰ってくる。
返されて、却されて、帰ってくる。
一度は好いたはずの女を翻って、帰ってくる。
「お前が一番だ」と。
「お前以外は要らない」と。

ああ、なんて、哀れな男。

自分ひとりじゃ何処にもいけないくせに。
自分ひとりの力じゃ、たつことすらままならないくせに。

私以外に誰が貴方のその異常性を看過してあげられるだろう。
どこにもいかなければ、あなたもわたしも、他の女性達も、誰一人として傷つかないというのに。

もういっそうのこと、
他の女を見られないように、目を抉ってやろうか。
他の女を口説けないように、口を縫ってあげようか。
他の女に触れられないように、腕をそいであげようか。
他の女の下にいけないように、足を切り落としてやろうか。

自分からは告白なぞしていない。恋人になってくれと言われたから、なったのに、思っていたのと違うと振られたと。
毎度毎度のセリフを携えて、彼は私にすり寄る。

いつまでこんなことを繰り返すのだろう。
私も彼も、もう、若くはないというのに。

彼は、私の腰を抱き寄せて、ああ、と一つ嘆息を吐き出した。

ねえ、こんな愛し方しか出来ないなら、もういっそ。

サムネイル 写真素材 足成 様
http://www.ashinari.com/

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