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これから何を恨めばいいでしょう。

2014-01-23

 

忘れもしない、2013年2月26日。
債権法の改正に向けて中間試案が纏まった。
1896年、つまり明治29年の制定から120年の時を経て、現代社会に対応したものとなる。
その中でも大きく変わりそうなのは、連帯保証人の制度。
耳にしたこともあるかも知れないが、個人がお金を借りた場合、そのお金を必ず返しますよー、と保証してくれる人が必要となる。
そして、連帯保証人とは、お金を借りたその人がもしもいなくなってしまった場合、代わりにお金を返さなければならない。
その制度が、2015年の法改正で、無くなるかも知れない。
それをテレビのニュースで知った時、涙がこぼれた。
なんで今更。
なんでそんな法律、今まで存在していたの。
連帯保証人の制度さえなければ、私の父は、死ななかったのに。
あと三十年早く無くなっていれば、バブル経済が崩壊した時に、あんなにたくさんの人が死なずに済んだのに。
その前だって、いま、この瞬間だって。
ねえ、どうして?
どうして、今?
この法律に殺された人達を見殺しにしてきた国が、国家が、許せない。
どれだけの人が、この法律に殺されただろう。
どれだけの人が、悲しみに暮れ、途方にくれただろう。
どれだけの人が、故人を悼んで泣いただろう。
どれだけの人が、裏切られて、心に鬼を住まわせただろう。
本当に、悔しい。
悔しい。悔しい。悔しい。
なんで、何で今更。
なんで、父が連帯保証人の制度に苦しんで自殺する前に、無くならなかったのだ。

父は、友人に、連帯保証人を頼まれたらしい。
今思えば、「連帯保証人になってくれ」と頼んだ時点で、その「友人」とやらは、父を「友達」だとは思っていなかっただろう。
とても大事な人に、そんな辛い事を頼めるだろうか?
答えは、否だ。
そうして案の定、その「友人」とやらは失踪してしまう。
借金に首が回らなかったことを苦に、夜逃げしたのか、それても、父に体よくなすりつけたことにほっとして、夜逃げしたのか、そんなことはどうだっていい。過ぎてしまったことだから。
兎にも角にも、父には定型文通り「多額の借金」が請求されたらしい。
幼い子供や愛する妻を置いて、死んだのだ。
100万や200万とか、そんな額じゃないと思う。
それとも、高利子のお陰で雪だるま式に膨れあがったか。
いや、どうでもいいのだ。今となっては。
そうして父は、誰にも相談できず、雪が降る寒い夜に、首をくくった。

優しい人だった。
口は悪いけど、マメで、綺麗好きで、世話好きで。
仕事の愚痴を家庭に持ち込まない人で。
家族の前では決してタバコを吸わない人だった。
疲れていないはずはないのに、土日は必ず私の遊び相手になってくれた。
しつけは厳しく、食べる時のマナーには特に厳しい人だった。
相撲を観るのが好きで、カラオケが苦手で、ゴルフは下手の横好き。
プロレスを観るのは好きだけど、自分が痛い思いをするのは嫌だと、観る側に徹底した。
母と喧嘩しては家を飛び出していた幼い私に付き合って、家の近くの公園で、星が出るまで粘り強く私が家に帰るのを見守ってくれた。
よく笑う人だった。
よく怒る人だった。
よく遊んでくれる人だった。
子供の為に、残業のない仕事に転職をするような人だった。
母を、深く愛していた。

ねえ、お父さん、聞こえる?
連帯保証人の制度、無くなるかも知れないってさ。
120年も時代錯誤な法律を日本は放っておいたんだよ。
連帯保証人の制度で自殺した人、自己破産した人、他にもいっぱい辛い想いをした人、数え切れないほどの人間を悲しませた法律が、無くなるかも知れないんだって。
私は素直に喜べない。
貴方の真っ赤に泣き腫らした、最初で最後の泣き顔を、そんな死に顔を見てしまった私は、素直に喜べないよ。
なんで今更って思う。
本当なら、お父さんの「友人」とかって人を探し出して、あなたと同じ苦しみを味合わせたいくらい、怒ってるよ。
この法律がなくなったところで、この法律に殺された人が生き返る訳じゃない。
貴方だって、あんなに泣いて死んだんだもの、死にたくなんて、なかったよね。
辛かったね。
ねえ、お父さん。
2015年、連帯保証人の制度が撤廃されるかも知れないその歳に、私はあなたと同い年になるんです。
とうとう私は、あなたの年齢に並んでしまう。
その年に、私は結婚するんです。

ねえ、お父さん。
私は一体何を、恨んできたのでしょう。
これから何を恨めばいいでしょう。
どうか、もう、こんな悲劇、なくなるといいよね。

参考 朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/national/update/0226/TKY201302260403.html

サムネイル 写真素材 足成 様
http://www.ashinari.com/

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