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君の目には世界がどんな風にみえているんだろうね

2014-04-27

 

そう簡単に、人間って狂えるものなのかな。
そういった彼女の手には、「ツァラトゥストラはかく語りき」があった。
しかも下巻。
よく読んだなぁと僕は静かに目を見張る。
上巻の三つ目の話くらいから、文章が頭の中に入ることを拒絶した本だ。それでも世界の名書の一つだしと思って、せめて上巻だけでもと図書館で延長に延長を重ね何度も借り直し、這い蹲るように読んだ本である。
正直、内容は全く覚えていない。
大人になれば面白く感じるというから、僕の読書年齢は小中学生で止まっているのだろう。
「どうかな…本人も無自覚なんでしょ。どうしようもないところまで行き着くと、そうなるんじゃない?」
「でも、理性ってそう簡単に手放せないでしょう」
お酒に酔って前後不覚になった経験を持つ人間が何を云うか。
そもそも、統合失調症の定理自体が不安定だなと僕は感じていた。
明確な線引きがあるものではないと思っている。
脳科学的に見てどうなのだろう。でも投与薬があると言うことは、なんというか、ある程度科学的に証明されていて…。
ダメだ、わからん。こちとら世間じゃ負け犬と名高い文系男子なのだ。そんな難しいこと云わないで下さい。
「世界が変わって見えるのかな」
どこか、羨望にも似たその声に、滅多なことを云うものじゃないよと僕は静かにたしなめて、彼女の頭を軽く撫でた。
苦しんでいる人は一杯いるんだから。
行くね。
そうして僕が声を掛けると、「そっか」と彼女は使い古したラテン語の辞書を取り出した。
ニーチェ、気に入ったんだ。
気に入った本の文章を一語一句漏らさずに訳すというのがここ数年の彼女のマイブームだった。
一度翻訳作業に入ってしまえば、彼女には周囲の状況がわからない。
僕はなるべく音を発てずに彼女の部屋を後にした。

彼女の言動がおかしくなったのは、唐突で。
空が青いと泣いて、シロツメクサが咲いたと云って泣いて、何をしても、何を見ても、彼女はただただ涙を流した。
泣き喚いてくれたらどれ程楽だっただろうか。
しかし、彼女は無表情のまま、ただただ涙を流す。
そうして、彼女だけの世界に閉じこもってしまった。
あれから何度も廻ってきた初夏の空は、突き抜けるように青い。
「君の目には世界がどんな風にみえているんだろうね」
君はまだ、空が青いと泣くだろうか。

サムネイル 写真素材 足成 様 http://www.ashinari.com/

参照 精神科病棟閉鎖病棟 入院体験記 http://www.mental-hospital.com/
他、いっぱい。

お断り
私自身、勉強中の分野ですので、拙い部分が多々あるかと思います。
症状は人によって様々です。どうぞ、ご理解下さい。

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