Here now
ホーム > セリフ・掛け合い > 手の平の砂を掴み損ねる女の話

手の平の砂を掴み損ねる女の話

2014-05-10

 

「好きだ」とか「結婚してくれ」とか「俺にはお前が必要だ」とか。
そうして毎日のように連絡をくれていた友人から、ぱたりと音信が途絶えた。
仕事で忙しいのか、はたまた連絡をとれない状況に陥っているのか定かではないが、そんな状態で二ヶ月が経過した頃、流石に気になってメールを打った。
「生きてる?」
それまでならばどんなに遅くても一時間後には来た返事が、二日経っても返ってこない。
これはいよいよ死んでいるんじゃないか、そんな縁起でもない考えが頭を過ぎる。
大丈夫か、と二通目を送ろうとしたその時、「生きてるよ」と一言だけ返事があった。
ほっとする一方で、簡素な答えに違和感を覚える。
以前は一を送れば十が返ってきた相手なのに。
まあ、人間関係なんてそんなものだろう。
スマフォを鞄にしまって、横断歩道を渡ろうとしたその時、反対側で見慣れた男と、見知らぬ女が腕を組んで渡って来た。
なんだ、そういうことか。
私は、回れ右をして行き先へのルートを若干変える。
そうか、ならよかった。元気そうで。
「好き」だの「結婚してくれ」だの云っていた友人は、音信不通になっていたこの数ヶ月間で云う相手を変更したらしい。
砂が、手の平ですくった砂が指の間から流れ落ちる。
さらさらと、さらさらと。
零れたものは決して元には戻らない。
流れて消えて、私の手はいつだって掴み損ねて、何も残らない。
覆水盆に返らず、というか。
ちくりと胸が痛むのは、何故だろう。
自嘲の笑みを浮かべて、私はヒールを鳴らした。

サムネイル 写真素材 足成 様 http://www.ashinari.com/

 

 

0

コメントを残す

Top