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予防線、張られてるんだと思ってたよ

2015-03-21

 

「付き合ってたんですよ」
浮いた噂一つない後輩が、最近なんとなく男友達の話を零すようになった。
彼の話をする時の彼女が、あまりにも幸せそうな顔をするので、「好きなの?」と聞いた返事が、これである。
「付き合って、た?」
「はい、過去形です」
スパークリングの日本酒を飲み干して、彼女は呵々と笑う。
酒の席で、上司からの「彼氏は?」「結婚は?」と云う言葉に辟易していた後輩だ。まさか、こんなにも素直に答えてくれるとは思わなかった。
「プロポーズもして貰えたんですけど、断っちゃって」
それでもお互いに、別れた後も、年に何度か一緒に遊ぶ仲に落ち着いているのは、恐らくは未練があるから。
この後輩にだけでなく、きっと、男の方にも。
「そう云う話、初めて聞いた」
「訊かれませんでしたから」
「予防線、張られてるんだと思ってたよ」
あんまりにも多くの恋愛話が嫌いだと聞き過ぎている。訊ける訳がない。
「だって、部長やリーダーは、決めつけるでしょう?結婚しろ、彼氏作れって」
先輩は、ちゃんと私の状況受け止めて、決めつけずに話を聞いて下さるので。
ニコリと微笑んだ彼女に心の底から上司達を恨んだ。あの人達のせいで、この子が随分とストレスを溜めてるなんて。
今、裁判を起こせば、十中八九、上司達を会社から追い出せるだろう。
「後悔してますねぇ」
遠くを見つめながら、彼女は云う。
全く、後悔していない口調で、彼女は云う。
その口調がいっそう、この人の悲しみを表しているかのようで、俺は熱燗を煽った。
今も好きなの?なんて野暮なことは云えない。
そんなの、この女性の顔を見れば一目瞭然だ。
(ああ……、完敗だよ)
つけいる隙も、つけ込む隙も、あったもんじゃない。

サムネイル 写真素材 足成 様  http://www.ashinari.com/

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