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妻が最後に見た景色はなんだったのだろう。

2015-04-02

 

妻が、死んだ。
道に仰向けで倒れていたようで、見つけた時にはすでに息を引き取っていたという。
事件と事故、両面で捜査をされたが、ハイヒールのかかとと地面に滑ったあとがあること。死亡当時、起動していたスマフォのカメラ機能に不自然なデータが残っていなかったこと、また、不自然な削除がされていなかったことを踏まえ、事件性はないと警察は断定。
彼女の遺体はあっという間に灰と骨になった。

後頭部強打による即死。
それが、彼女の死因。
妻が最後に見た景色はなんだったのだろう。
警察から帰ってきたスマフォのフォルダを開くと、夜桜と雲の隙間から覗く月が映っていた。
何度も何度も撮り直し、アングルを変え、ピントを変え、試行錯誤をしたデータの数々。
そうして、いきなり、画像が乱れた。
ああ、これが、彼女の最期の瞬間。
桜と、空と、月を一直線に結んで撮ろうとしたそのこだわりが、彼女を殺してしまった。
(ああ、君はどんくさかったもんね)
転んでしまったその瞬間まで、きっと自分が死ぬなんて思わなかっただろう。
なんで、こんな理不尽なと、彼女なら化けて出てきて怒るだろう。
おもむろに開いたメールフォルダには、保存されたまま送信していないメールが一通だけ残っていた。
「月が、綺麗ですよ」
僕に宛てた一文に、画面が涙で歪む。

あなたの隣だから、綺麗なんですよ。

サムネイル 写真素材 足成 様  http://www.ashinari.com/

追記:2015/04/02 10:58

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