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久々に会った元彼は、右腕の要所要所に大きなかさぶたを作っていた。

2015-06-28

 

久々に会った元彼は、右腕の要所要所に大きなかさぶたを作っていた。
曰く、「バイクで右カーブ曲がる時にスピード落とさなかったらどうなるかなって」
そして転倒したらしい。
魔が差したと笑う男が腹立たしくて、かさぶたを突ついてやった。
死んだらどうする。他人を巻き込んだらどうなる。
泣くのを我慢したはずなのに、顔が不細工に歪んだ。
そんな私を困ったように笑うのはずるい。まるでこちかが間違ったことをしているみたいで釈然としない。
さあ、目的地だ。
同時に改札を抜けようとした男は、甲高いアラーム音に阻まれ、改札を出られずにいる。
「ごめん、チャージが足んなかった」
ああ、君はホントにいつも詰めが甘い。
ICカードに入金をしに行く男を見送って、私は券売機の上の路線図を眺めた。
こうしてみると、郊外の一駅は割高だ。山手線なんて四分の一くらいは定額だと云うのに…。
降車客もまばらとなり、改札の外が無人になっても、元恋人はいっこうに姿をみせない。心配になって構内に入り、乗越清算機の前を見たが、誰もいない。
腹の弱い人だから、トイレでうずくまっているのだろうか。そう思って御手洗いに声を掛けるが返事はなかった。
ああ、なんだろう。この嫌な予感は。
私は恐る恐る、彼の携帯電話の番号を鳴らした。
ぷつっと、コールなしに聞こえてくる「この電話番号は現在使われておりません」という機械的な定型文に背筋が凍る。
そんな。だって、今まで側にいたのに。
かさぶたに触れると、あんなに嫌そうな顔をしていたのに。
上下線分しかないホームへ駆け下り、隅から隅からまで走り回る。
嘘だ。
きっと私をからかっているのだ。
今だって、ホームを駆けずりまわり汗だくになった私を、物陰に隠れて笑っているに違いない。
この駅では止まることのない特急が、警笛を鳴らして私の横を通りすぎる。
随分長くなったね、と彼が笑いながら撫でた髪が、風圧に逆巻いた。
嘘でしょ。
だって、さっきまで、一緒だったんだから。
膝から下が崩れ落ち、私はコンクリートのホームに手をついた。
カーブでスピード落とさずに曲がったら、事故るに決まっているじゃない。
打ち所が悪ければ死んじゃうんだよ。
大丈夫だよ、転ぶつもりだったから受け身は取ったし。
人間、このくらいでは死なないよ。
「嘘つき」
呆気なく死にやがって。
私にこんな形で会いにくるなんて反則だ。
「バーカ」
コンクリートに落ちた水滴は、染み込むと間も無く蒸発した。

サムネイル 写真素材 足成 様 http://www.ashinari.com/

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