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【掛け合い】ココロノアリカ

2015-08-12

 

ココロノアリカ

登場人物
水谷 さくら
アザミ

鈴岡 雅人

シーン1 昼 アトリエ
SE 革靴の音が広いアトリエの中に響く。
足音が止まる。

鈴岡「これは…」
アザミ「水原さくらが絵を描いていたことは、ご存じでしたね」
鈴岡「はい。ですが…、このようなものは初めて観ました」
アザミ「このような?」
鈴岡「恥ずかしながら、俺は絵画はおろか芸術に対して明るくありません。けれど、彼女が以前描いていた絵とは、随分と異なると思います」
アザミ「荒々しい」
鈴岡「そうですね、言葉を選ばなければ」
アザミ「これは、彼女の遺作です」
鈴岡「遺作って…」
アザミ「死んだようなものです」
鈴岡「そのような言い方は」
アザミ「医者がそのように判断したようですよ。心的摩耗症候群、この病気に権威のある医者が」
鈴岡「……すごい絵ですね…」
アザミ「私には、何が描いてあるのか、さっぱりわかりません。水谷さくらが何を伝えたかったのか、それさえ、わからない。…奥へどうぞ。彼女が待っています」

シーン2 さくらの寝室
SE 鳥の鳴き声

アザミ「さくら、鈴岡さんですよ」
鈴岡「……」
アザミ「と、声をかけてみましたが、多分彼女には聞こえないでしょう」
鈴岡「ずっと、こんな……」
アザミ「一年前のちょうど今頃でしょうか。いつまで経っても職場に現れない水谷さくらを心配した上司が、彼女の実家に連絡をしました。連絡を受けた母親が心配してこの家に着たのですが、発見した時にはすでに、手遅れだったそうです。今もそうしているように、ベッドの上に座り、ただただぼんやりと空を眺めていたと」
鈴岡「ずっと…」
アザミ「ええ。一年前からずっと、彼女は空を眺めているんです。いつ眠っているのか、実は私にもわかりません。今の彼女は、お風呂や排泄はもちろん、食べ物を飲み込むことさえ出来ません。傍にある生命維持装置を切ってしまえば、彼女は肉体も死んでしまう」
鈴岡「どうしてこんな…心的摩耗症候群だなんて…」
アザミ「その名の通り、心を、使いすぎました」
鈴岡「いや、わかります。けれど感情が数値化されてもう、何十年経っていると思うんですか」
アザミ「私に云われても仕方ありません。感情が高ぶった際のアラートを切ってしまう表現者は非常に多いと聞きます。恐らく、水谷さくらもその一人だったのでしょう。絵を描く時、警告表示が邪魔だったのだと思います。それを切ってしまうこと自体は罰則にはなりませんから」
鈴岡「そうして、摩耗した」
アザミ「そうです。彼女の遺作を観た人はみんな口を揃えて言います。『この作品を描いたのは、自殺に近いものだった』と」
鈴岡「自殺……」
アザミ「今となってはもう、わかりませんけれどね。少なくとも家族は彼女が自殺する理由なんて思い当たらないと考えているようですし。ただし、彼女も大の大人ですから、一々本当のことばかり家族に話していないでしょう。ましてや離れて暮らしているんです。逐一自分の気持ちを素直に語っていたとは思えない」
鈴岡「失礼ですが、人間、ですよね」
アザミ「人間です。アザミと申します」
鈴岡「失礼しました。こういった状態の人間を看病するのは、アンドロイドが主流ですから」
アザミ「そうですね。ですが、水谷さくらは政府認定の表現者でした。そのため手厚い援助がありまして。人間である私が世話をしても暮らせるだけの支援があります」
鈴岡「うまかったんですね」
アザミ「ええ、非常にうまかったんです。規制の合間を縫った表現は、彼女の十八番でしたから」
鈴岡「それにしても、どうして今頃、俺が呼ばれたんですか」
アザミ「まあ、不治の病ですし、この病気が発症してしまえば、あとは肉体の死を待つばかりです。鈴岡さんに会わせてもなんら意味がないと思っていたのですが……」
鈴岡「…ここで薄情だと貴方を責めることができない自分が
情けないです」
アザミ「まあ、それはともかく。今朝、さくらが言ったんです」
鈴岡「そんな莫迦な」
アザミ「私もそう思いました。どんなに外部から刺激を与えても、彼女が反応することは有り得ないんです。だから、声が出たのは偶然だと。でも、彼女は辿々しくも何度も繰り返したんです」

文字制限に阻まれたため、完全版はpixivにて公開中
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=5667876

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