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きっと、あれは恋だった。

2016-03-06

 

愛とか恋とかそんなもの、おとぎ話の中の話だと思っていた。
呪いをかけられたお姫様に恋をした王子様が、彼女の呪いを解き、永遠に結ばれる。
そんな世界で成り立つ話だと思っていた。
人間は、嘘つきで、残酷で、利己的で、狡猾で。
信じてしまえば、馬鹿を見る。
そんなんだから、愛されていたと気づいたのは、失ってからだった。
失って初めて気づく、だなんて陳腐な言葉を使うつもりはないけれど、それでもきっと、つい先日、私から離れた元恋人は、こんな私のことを愛してくれていたのだと思う。
人を信用しないから、愛してもらっていることさえ気づけなかった。
両手いっぱいの、こぼれてしまうほどたくさんの愛を貰っていたのに、気づいてあげられなかった。
気づかず、気づくことができず、彼を、失った。
頭を撫でてくれたのも、折に触れていろんな場所に連れて行ってくれたのも、ぎゅっと抱きしめてくれたのも。
決して言葉にしなくても、それが彼なりの不器用な愛し方だったのだと、今なら、分かる。
ああ、返せていただろうか。
彼以上の、なんてそんな大それたことは言わない。
せめて、見合う分だけの何かを、私は返せていただろうか。
返せているわけ、ないか。
ちゃんと私があの人を愛せていたのなら、ほんの少しでもそれが伝わっていたのなら、彼が私から離れる必要なんてなかったのだろうから。
ただ私が認めなかっただけ。
目をふさぎ、耳をふさいでいただけで、気づかないふりをしていたけれど、きっとあれは恋だった。
不器用で、無作法で、不細工で、どうしようもないけれど。
目も当てられないものだったけれど。
きっと、あれは恋だった。
私のそばから去ってしまった彼にはもう、「ありがとう」も「ごめんなさい」さえも届かない。
彼の愛に気づけなかった私は、あの人を深く傷つけてしまっただろうから。
そう気づくことができても、きっとこの先、私は誰のことも愛せないだろう。
もういい、疲れた。
あの人に愛してもらえただけで奇跡みたいなものだから。
ただ、通り過ぎただけの恋でも、袖が軽く触れるだけのものでも、彼が忘れてしまっても、それでもきっと、世界が残酷だとばかり思っていた私がつかの間の幸せを貰えたのは、奇跡みたいなものだったから。
この先、誰にも愛を返せないくらいなら、愛や恋はおとぎ話で構わない。
呪いを解いてくれる王子様なんて、いらない。
世界がどこまでも残酷なものに戻るだけ。
ただ、それだけの、つまらないお話。

サムネイル 写真素材 足成様 http://www.ashinari.com/

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