Here now
ホーム > セリフ・掛け合い > 人生で初めて、男を買った。

人生で初めて、男を買った。

2016-04-08

 
恐い。怖くて仕方がない。
今すぐここから逃げ出してしまいたい。
さっきからボロボロと涙が出て止まらないのは、恐怖から。
人生で初めて、男を買った。
それでも誰かに強要をされた訳では決してなく、人肌恋しくて、数少ない女性向けの風俗に駆け込んだのだ。
しかし、蓋を開けてみれば、なんてことない。恐怖に怯えて泣いている。
こんな自分はさぞや滑稽なことだろう。
これが、見ず知らずの相手とセックスをするからそれが不安で、とか可愛らしい理由ならばまだ救いようがあっただろう。
そんなんだったら、そもそも男なんて買わない。
そんなことじゃなくて。
ただ、自分が醜くて申し訳ないと思った。
こんなに不細工で、頭が悪くて、スタイルも悪くて、そんな私が何を偉そうに人を買っているんだろう。
選んだ服は、メイクは、髪型は、滑稽ではないだろうか。
お前のような人間が、俺の時間を奪うんじゃないと思われたら、どうしよう。
いや、相手はプロなのだ。
そんな風に思ったとしても、きっとお首にも出さず、業務を終えてくれるはずである。
客に、金に、ひれ伏しているのだから。
別に、買った男の品性を落としたいわけじゃない。
数少ない女性向け風俗の店を見比べて、何度も何度も逡巡して、一世一代の決意で予約したのだ。
きっと、大丈夫。
少なくとも相手の人は、良い人柄だと、思う。
と、思うのに。
そんな慰めでは拭えない恐怖が、身を包んで仕方ない。
こんな私が、どんな顔をして、買った男の前に立てばいいのだろう。
浅ましい、醜い。
こんな人間が、こんな人間でも、性欲だけはあるのか。
なんて、醜い。
醜すぎて、消えてしまいたい。
消えてしまえなくて、へとへとに疲れて、そうして男を買ったというのに、これじゃあ本末転倒だ。
この待ち時間が、永遠に続けばいい。
ふわふわとしたベッドの片隅で、ずっと自分を責めていられる。
ボタボタと。
不細工な顔をさらに酷くするように、涙が零れた。
なけなしの勇気を振り絞って、男の時間を予約したのは、それなりに理由がある。
HPの上に掲げられた経営理念をみた瞬間、涙が零れた。
「恋が面倒という貴方に」
そもそも私なんかに恋なんて贅沢だったのだろう。
恋愛なんてものは、もっともっと、可愛くてキラキラとした女性がするものなのだから。
それを、面倒だなんて言える私は、何様だろうとも思うのだが、それでも、僅少な男性経験の中で出した結論は、面倒だということ。
デートがとか、贈り物がとかいうつもりは、さらさらない。
ただただ。
人に好意を寄せるという、行為そのものに疲れてしまった。
好きになっても、好きと言われても、結局自分の下から離れていくのならば、最初からいない方がどんなに心が軽いだろう。
誰かに傍にいてもらえた。ただその事実だけで十分だというのに、私なんかがそれ以上を望んではいけないというのに、想ってしまうのだ。
要らなくなるのなら、最初から、要らなかったのに、と。
そう、嘆くことが、面倒くさい。
失うだけの愛とか、恋とか、面倒くさい。
恋愛が面倒だ、なんていってしまった日には、老若男女構わず忌避の目線を向けられる。
なんで?ありえない。した方がいいよ、と。
きっと、誰に拒絶されるわけもなく、ちゃんと愛されて育ったのだろう、羨ましい。
人に期待をしたら、その分だけちゃんと返って来た人達が、羨ましい。
だから、口をつぐむようになった。
そんな人間に、HPで見つけたあの言葉は、魔法の言葉だった。
ああ、面倒だと思って、いいんだ。
救われた、気がしたのだ。
否定される度に自分は何かが足りないんじゃないかと、欠落しているんだと思ってた。
否定されるのは、慣れている。でも、それは慣れているだけで、痛いことには、かわりない。
ここのお店の人になら、お願いできる気がしたのだ。
大丈夫。
こんなしょうもない私でも、笑ってくれる。
大丈夫。
ベッドをきゅっと掴めば、優しい匂いが鼻腔をくすぐった。
さあ、泣いても泣いても、約束の時間だ。
私は乱暴に頬をぬぐうと、泣くことを、やめた。
不細工だという自覚があるなら、せめて、堂々としていよう。
ほんの少しだけでも、有意義だと思ってもらえるような、そんな自分を演じよう。
こんな女に買われてしまったその人は、一緒にトップスの紅茶のケーキを食べてくれるだろうか。

関連: http://on-mic.com/serif/5000/2016/0929233126/

0

コメントを残す

Top