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抱かせてあげたの?

2016-05-01

 

抱かせてあげたの?
冗談でも云ってはいけないことの区別はつけているつもりだ。
それでも口に出してしまったのは、彼女があまりにも女の武器を使うからである。
泣きの要員にも嫌な顔一つせず同伴し、飲みの席では積極的に媚びを売る。
腹が立つのはそれが嫌味にならないところだ。
嫌味にならないのが、嫌味でしかない。
彼女は、特別美人とも可愛いとも言えないその顔を、キリと唇の端っこだけ上げて、笑い顔にして見せた。
目が、笑ってない。
怖すぎる。
だったら、何?
こともなげにそういい放った彼女に、二の句を告げずにいた俺を、彼女はあざ笑うように喉の奥でくっくと嗤う。
ああ、やられた。
そんな程度だから、いつまで経っても…。
『平止まりなのよ』
そんな。品性を疑われる言葉は彼女は決して声には出さない。
だけれど、その双眸が語るのだ。
『なんてしょうもない男だろう』と。
ああ、悔しい。
彼女の昇進を心の底から祝ってやれない自分が、すごく情けなくて、恥ずかしい。
確かに、彼女は女として武器を目一杯使う。
愛想を振りまき、愛嬌を振りまく。
でもそれ以上に、仕事上での努力を怠っていないことも知っている。
たらたら仕事をするが嫌だからと、この女は早出も残業もほとんどしない。
その代わり、仕事中の集中力といったらものすごいのだ。
彼女がケアレスミスをしたことなんて見たことがないと、誰もが口をそろえて言う。
彼女が期限ギリギリまで粘るような仕事をしているのを見たことがないと、誰もが口をそろえて言うのだ。
そういう、人間なのだ。
女に生まれてしまったから、女というだけで、男は見下すものだから。
心のどこかで、頭の端っこで馬鹿にしているから。
だから彼女は、いや、この人は、女であることを目一杯逆手に取った。
自分のことを、利用したのだ。
上司に取り入って抱かれたのでも何でもない。
彼女の昇進は誰もが納得する、彼女の働きによるものである。
それを認めたくない愚かな男どもが、陰で言うんだ。
体を売ったのだろう、と。
大した女でないのに。
美人でもないくせに、可愛くもないくせに、と。
「名の知れた企業でなら、そんな偏屈な考え方、ないと思ってたんだけど。残念ね」
入る会社、間違えたかしら。
ほんの少しだけ泣きそうに顔をゆがめて彼女はいう。
こういうときばかり、女を使わないなんて、なんて卑怯な人だろう。

サムネイル 写真素材 足成様 http://www.ashinari.com/

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