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週末がくるのが怖かった。

2016-05-21

 

週末がくるのが怖かった。
なんの予定もなく、誰とも一緒にいない土日がたまらなく怖くて仕方がなくて。
何もない週末は、自分が生きているのか死んでいるのかが、わからなくなる。
怖い。
怖くて、仕方がない。
いつの頃からか、私は土曜日に街に繰り出し、男を買い、そのまま日曜日の昼まで名前もわからない相手とラブホテルで過ごすようになった。
水商売の人も、風俗の人も、一般人も。
玄人、素人関係ない。
生理的に受け付けないという訳じゃなければ即決で。
私をそこそこの顔面偏差値に生んでくれた親に感謝した。
そうじゃなければ、こんな遊び自体、成立しなかっただろう。
そう、これは遊びなのだから。
寂しさを紛らわすために、金で穴を埋める。
それだけのこと。
人から見れば、きっと荒れた生活を送っていることだろう。でも、そのくらいがちょうどいい。
名前を知らない人と唇を重ねる、肌を合わせる。
たまにしつこく連絡先を聞いてくる人には、嘘を教えてやり過ごす。
そんな、人様から見ればしょうもない生活を送っていたからだろう。
妊娠していた。
体がおかしい。この先一人で生きなきゃいけないなら、病気なんてさっさと治療しなければ。
意気込んで診療を受けた私に告げられたのは、妊娠という事実だった。
出産予定日を訊けば、二月という。
避妊、失敗したんだ。
こんなことなら面倒臭がらずにちゃんとピルを処方して貰うべきだった。
そんなこと思ったって仕方ない。
私はその晩、妹に、結婚式を欠席することをメールで知らせた。
おもえば、同じ親から生まれて同じ家で育ったというのに、妹と私はどこまでも正反対だった。
名の通った大学に通い、国家資格を取り、業界最大手の企業に就職し、取引先の会社で働いていた男性と結婚した妹。
片や、無名の短大を出て、就活に失敗し、契約社員でどうにか生計を立てる私。
それでも、出来すぎな妹は私を慕ってくれていて、案の定、メールを送って五分もしないうちに、電話が鳴った。
なんで、と不安そうに、怒ったように告げる妹に、私はただただ、子供ができたから、貴方の式の頃にはお腹が大きくなってるから、と告げる。
妹は、おめでとう、と跳ねるような声でそういった。
ああ、違う。そうじゃない。そうじゃないのだ。
事態は妹の思っているような幸せなものではなんでもなくて。
父親どころか、いつの行為で宿した子か、さえわからないのだから。
相手とは結婚どころか決着のつけようがない。
実家は田舎だから、未婚母となった娘なんて、世間体が悪くて敷居を跨がせたくないだろう。
妹の結婚式ではお腹の膨らみは隠せない。
目敏い親戚に旦那は出席しないのかと問われる。
妹の一生に一度しかない晴れの席を、汚したくはないのだ。
だから、私、失踪するからね。
どうか、あんたは旦那さんを大事にして幸せに暮らすのよ。
嫌だと泣き叫んだ妹との通話を一方的に切る。そうして電源を落とした。
この携帯電話も明日には解約しよう。
明日、職場には離職願いを出し、家財道具の一切を処分しよう。
そうして、旅行カバン一つと、お腹の子供と一緒に、夜逃げするのだ。
ああ、私の人生、ろくなものじゃないな。
私はお腹に手をおき、優しくさする。
ろくでなしの母で、ごめんね。
でもきっと、この先二十年近くは、私は一人じゃないんだと思う。

サムネイル 写真素材 足成 様  http://www.ashinari.com/

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